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校門の時計だけが知っている/細井敏彦

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1990年の通称「神戸高塚高校校門圧死事件」について、事件の当事者である元教師が記した著書。

気になる事件のルポはよく読みますが、当事者(加害者)が事件について自ら執筆した本を読むのは、今回が初めてかも。何となく事件への言い訳めいた内容なんじゃないかと勘ぐってしまうから、あんまり読みたいとは思わないのよね。でも、今回それでも読んでみようと思ったのは、この事件についてもっとよく知りたかったから。
どうしてこの事件が起こったのか。事件当時あれだけマスコミが騒ぎたてていたのと加害者との間にどれだけ意識の隔たりがあるのか。

私自身も、この事件についてはマスコミに脚色された犯人像をその通りだと思いこんでいたし、脚色されているのかどうかすら、全く意識していなかった。
事件当時の私が持っていた(マスコミに植え付けられた)加害者のイメージをそのまま引きずってこの本を読んでいたら、言い訳がましく見えたかもしれない。

それでも、当事者である細井氏が熱い人だというのはよく伝わってくるし、単純に「強引な教師の不注意が一女生徒を死に至らしめた」という事件ではないと理解できた。
細井氏の「門を閉める」という行為が女生徒を死に至らしめてしまったのは、本当に残念であってはならないことだけど、この事件にはいくつもの偶然と背景が存在している。

何よりも不可解だったのは、この学校が抱えていた生徒達の遅刻問題。
毎日20~30人もの遅刻者問題を解決させる方法の一つとして、時間になったら門を閉めるという手段をとっていた学校。……って、ここ高校でしたよね?高校生にもなって、複数の先生方が時間ギリギリまで校門に立ち当番して、急ごうとしない生徒をせかさないといけないの?あまりに幼稚じゃないかい?
そこにとっても驚いた。
高塚高校の生徒のこうした意識の低さについても、細井氏は嘆きながら指摘している。

生徒達の生活態度を改めていくことが生徒達の意識向上に繋がると信じて尽力し、その一旦が遅刻対策の「門を閉める」という行為であったのだが、それが結果として一生徒の命を奪ってしまったというのは、あまりにも悲しくて虚しい。

著者は事件当時に作家・佐藤愛子が東京新聞に載せたエッセイを引用しているが、彼女の文章はまさに私が感じたそのままを代弁してくれていた。私が今回加害者の著書を読んでやっと見えてきた事件の根幹に、佐藤愛子氏は事件当時に既に気が付いていたというのはさすがと感心するばかり。

つまりは、「権利を主張する前に、規則を守って義務をはたそうね」ということかな。

by honochimama | 2011-06-28 12:44  

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